歯周病と全身疾患について

歯周病は予防が大事

歯周病についての一般的なイメージは、「歯茎が腫れたり」「歯がグラグラになったり」「歯茎から出血や膿が出たり」「口臭がしたり」といったものかもしれません。でも、歯周病は実は「歯を支える骨を壊す病気」なんです。歯茎からの出血は、この骨が壊れる結果生じる症状に過ぎません。歯茎だけの問題や症状の場合は「歯肉炎」と言います。

歯周病には歯肉炎と歯周炎の大きく2つがあります。歯茎だけの症状や問題は「歯肉炎」と呼ばれます。一方で、「歯周炎」は歯肉炎が進行して歯槽骨まで広がった状態です。歯周炎になると、歯の周りから膿がでたり、歯がグラグラしたりします。放置すると最終的には歯が抜けてしまいます。

図:歯肉炎と歯周炎

歯肉炎と歯周炎

歯肉炎は初期段階の歯周病で、適切な治療で健康な状態に戻すことができます。しかし、「歯周炎」に進行すると、元に戻すのは難しくなります。再生療法でも完全に元に戻すことは難しく、他の治療でも歯周炎の進行を食い止めたり遅らせたりすることしかできません。

歯肉炎から歯周炎への進行は自覚しにくいです。歯がグラグラするなどの異変に気づいた時には、すでに進行していて歯を抜くしかない状態かもしれません。そして、最近では歯周病が全身の様々な病気に影響を与えることが分かっています。お口健康だけでなく体の健康のためにも、早いうちから歯周病予防に取り組むことが非常に重要となってきます。

歯周病が全身に及ぼす影響

歯周病の進行で歯周組織が破壊され出血した状態によって、歯周病菌が血液を介して全身に広がり身体に悪影響を及ぼしたり、口から飲み込まれた歯周病菌が腸内細菌環境に影響を及ぼすなどと考えられています。歯周病との関連性が指摘されている主な疾患としては、下記などがあげられます。

図:歯周病との関連性が指摘されている主な疾患

歯周病との関連性が指摘されている主な疾患
  • 糖尿病を増悪させる
  • 低体重児出産、早産、流産のリスクが高まる
  • 心筋梗塞、脳梗塞のリスクが高まる
  • 骨粗鬆症のリスクが高まる、増悪させる
  • 誤嚥性肺炎のリスクが高まる
  • アルツハイマー型認知症の病態を増悪させる

それぞれの全身疾患と歯周病との関係について少し詳しくご説明いたします。お役立ていただき、ぜひ歯周病予防にも積極的に取り組んでほしいと思っております。

歯周病と糖尿病

歯周病と糖尿病については、次のような状況が起こります。

  • 歯周病が悪化すると糖尿病も悪化する
  • 歯周病のコントロールができていないと糖尿病のコントロールも難しい

なぜ歯周病が増悪すると糖尿病が増悪するのか?これには歯周病菌が持つ「内毒素:エンドトキシン」というものが深く関与しています。内毒素とは細菌がもつ細胞壁に存在するもので、毒素としては強くないですが、体に様々な悪影響を及ぼします。

この内毒素はヒトの脂肪組織や肝臓からTNF-αという物質の分泌を強力に促します。このTNF-αが膵臓のランゲルハンス細胞から分泌されるインシュリン(血糖をコントロールするホルモン)の働きを著しく阻害します。以上のことにより、血糖コントロールが不良となってしまい、糖尿病を増悪させてしまうのです。

糖尿病に罹患すると、体の免疫力が低下していきます。すると口腔内の歯周病菌はさらに増殖します。歯周病菌が増殖すると糖尿病が増悪する・・・・このように負の連鎖に陥ってしまいます。「しっかり糖尿病コントロールをしているつもりだが、安定しない」「内科医に糖尿病と診断されてしまった」などなど、体に変調があった場合、歯周病が関与しているかもしれません。一度歯周病の罹患状態を調べてみてはいかがでしょうか。

低体重児出産、早産、流産のリスク

歯周病によって低体重児出産、早産、流産のリスクが高まると言われる理由についてご説明していきます。

なぜ歯周病に罹患すると、低体重児出産や、早産・流産のリスクが高くなるのか。一つ目は歯周病菌の影響によりプロスタグランジンという炎症性の化学伝達物質が体の中に多く出現します。プロスタグランジンの中にも何種類かはありますが、その中の一つが子宮の収縮作用を持つということがあるため低体重児出産や早産・流産のリスクが高まるのです。

二つ目は口の中の歯周病菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に直接感染するのではないかとも言われています。歯周病による低体重児、早産・流産のリスクは妊娠中に飲酒、喫煙をするときのリスクと比べて7倍近く高いとの報告もあります。また、歯周病菌の中には女性ホルモンが好きな菌がいます。妊娠中や、授乳中、生理中に歯茎が腫れる、血が出る等の症状のある方はそのような歯周病菌に感染している可能性があります。

歯周病はしっかり治療を行えば治すこともできますし、予防もできます。今後妊活等を考えている方は是非一度歯周病検査を受けていただくことをお勧めします。

心筋梗塞、脳梗塞のリスク

歯周病に罹患すると、心筋梗塞、脳梗塞のリスクが高くなることについてご説明いたします。

歯周病菌による刺激によって体から、動脈を硬くしてしまう物質(動脈硬化の原因)が出ることが最近になってわかってきました。その物質により動脈は弾力を失うと同時に血管の内側にべとべとの物質(プラーク)が付着してきます。このような状態になると、血管の通り道は細くなって血流が末端まで届きづらくなってきてしまいます。心臓の栄養動脈である冠動脈でこの現象が起きると狭心症となります。

細くなってしまった血液の通り道には常に心臓から血液が送り込まれるため、血圧も高くなっていきます。動脈の弾性も弱くなってきているので、動脈破裂など、想像していただくだけで恐ろしい状態が待っています。

少し話は脱線しましたが、血管の内側に付着したプラークが剥がれ落ちそのプラーク周囲で血の塊(血栓)が形成され、動脈に流され血管が詰まってしまった状態が「梗塞」です。脳で起これば「脳梗塞」、心臓で起これは「心筋梗塞」となるわけです。

最近の研究で「重度歯周病に罹患している人は歯周病に罹患していない人に比べ約3倍脳梗塞を発症しやすくなっている」とも言われています。脳血管等の疾患をお持ちの方は、しっかりとした「歯周病治療」「歯周病予防」を行うことを強くお勧めいたします。

歯周病と骨粗しょう症

歯周病と骨粗しょう症の関連性についてご説明いたします。骨粗しょう症は特に女性が発症するリスクが高く、9割が女性の罹患者とも言われていおります。閉経後の女性に発症しやすいと言われており、卵巣機能低下による骨代謝に関連性の高いエストロゲンの低下が原因とも言われております。

骨粗しょう症になると骨密度が低下し、骨がもろくなります。そうなるともちろん歯を支えている骨(歯槽骨)ももろくなり、軽度の炎症であっても、健常な骨の方よりも炎症の波及が早く進み、歯周病の進行が加速すると考えられています。

骨粗しょう症の方は歯周病の進行が早いため、しっかりとした歯周病ケアが必要となります。骨粗しょう症に罹患されている方は、定期的な歯科受診をお勧めするとともに、歯周病予防・治療が必要となります。骨粗しょう症が進行し、骨代謝を抑制する薬(ビスフォスホネート製剤)を服用または、定期的に注射されている方は、安易に抜歯や、インプラント治療を行うことも困難となります。

抜歯することにより、骨壊死(骨が腐る状態)を招いたり、インプラントと骨が結合しないなどの重大なことが起こる可能性があります。また、口腔内清掃状況が著しく不良になることによっても骨壊死が発生するとの報告もあり、より、しっかりとした口腔内環境を保つ必要があります。もしお口の中でお困りなことや、心配なことがございましたら当院までお問い合わせください。